大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和56年(行ウ)2号 判決 1987年3月10日

茨城県笠間市福田字石原一六五番地の一

原告

石原砕石産業株式会社

右代表者代表取締役

藤田千代子

右訴訟代理人弁護士

渋田幹雄

水戸市北見町一-一七

被告

水戸税務署長

右指定代理人

山崎まさよ

萩野譲

櫻井卓哉

日出山武

長山道雄

川田武

高野郁夫

矢亀薫

主文

一  被告が昭和五四年六月三〇日付でした原告の昭和五二年九月一日から昭和五三年八月三一日までの事業年度分法人税の更正及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定(但し、いずれも審査裁決による一部取消し後のもの)のうち、所得金額四〇七万九三六五円を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求める判決

一  原告

1  被告が昭和五四年六月三〇日付でした原告の昭和五二年九月一日から昭和五三年八月三一日までの事業年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定(但し、いずれも審査裁決による一部取消し後の部分)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  株式会社である原告の昭和五二年九月一日から昭和五三年八月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告の確定申告、これに対する被告の更正及び過少申告が加算税の賦課決定並びに国税不服審判所長の審査裁決の経緯は、別表(一)記載のとおりである。

2  しかし、被告がした本件更正処分のうち、申告所得金額を超える部分は原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、従ってまた、本件更正処分を前提とする本件過少申告加算税賦課決定処分も違法である。

よって、原告はこれら本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1項の事実は認める。但し、確定申告の日は昭和五三年一〇月三一日であり、審査裁決の日は昭和五五年一一月二七である。

2  同2項は争う。

三  被告の主張

1  本件更正処分の適法性

原告の本件事業年度における所得金額は左記のとおり二三七七万七一八九円であるから、その範囲内の所得金額二〇八一万四六八九円(審査裁決で取り消された後の額)の限度で存続する本件更正処分は適法である。

(一) 所得金額((二)+(三)+(四)) 二三七七万七一八九円

(二) 申告額 △四〇万三三九〇円

(三) 寄附金の損金不算入額 一九六九万七八二四円

(四) 支払利息の損金不算入額 四四八万二七五五円

右の寄附金の損金不算入額と支払利息の損金不算入額の計算内容は、次のとおりである。

(一) 寄附金の損金不算入額(一九六九万七八二四円)について

(1) 原告は、砕石業を営んでいた訴外協栄商事株式会社(以下「協栄商事」という。)が昭和五一年六月に倒産したことから、協栄商事の債務支払のため同年九月六日設立されたいわゆる第二会社で、実質的には協栄商事の代表取締役藤田正男が主宰し、協栄商事と同族関係にある会社である。すなわち原告は、協栄商事が所有し従前使用していた砕石山林(茨城県笠間市福田字狢ヶ入一四八番七山林二万九七〇〇平方メートル、以下「本件山林」という。)、建物、構築物、車両及び機械器具を協栄商事倒産後借り受け使用して砕石業を営み、右賃借料を協栄商事に支払うことによって、そのほとんどを協栄商事の債権者に対する債務の弁済に充てていたものである。

(2) しかるところ原告は、協栄商事に対し、前記賃借料として、昭和五二年九月から昭和五三年三月までの間は月額四〇〇万円、昭和五三年から同年八月までの間は増額して月額八〇〇万円の各割合で合計六八〇〇万円を支払った。

(3) しかし、右増額された支払賃借料の額は、適正な賃借料額に比し著しく高額である。

特定年度における適正賃借料の一か月当たり金額は、<1>原石の原価、<2>原価償却費、<3>租税公課の額、<4>賃貸人の利益の額を基礎とし、

(<1>+<2>+<3>+<4>)÷12

の算式によって、算定することができる。

右算式に従い昭和五三年四月分以降の適正賃借料を算定すべく、後記(4)の<1>原石の原価二三五四万三四五五円、<2>原価償却費一八六八万四五二七円、<3>租税公課の額五六万八二七〇円、<4>賃貸人の利益の額四九五万五六一一円を基礎として算定すると、一か月当たりの賃借料は三九七万九三二一円、端数を切り上げ月額四〇〇万円となり、本件事業年度の年間適正賃借料は計四八〇〇万円となる。従って、原告が支払った増額後の賃借料月額八〇〇万円は著しく高額であり、適正賃借料額を超える計二〇〇〇万円は、法人税法三七条五項所定の反対給付のない経済的な利益の供与(寄附金)と認定され、そのうち同法三七条及び同法施行令七三条の規定により計算した損金算入限度額を超える一九六九万七八二四円(その計算の明細は別表(二)のとおり。)を損金不算入額として原告の本件事業年度分の所得金額に加算すべきものである。

(4) 適正賃借料額算定の基礎となる前記<1>ないし<4>の各数額の根拠は次のとおりである。

<1> 原石の原価(二三五四万三四五五円)

右は、後記の砕石業界の精通者意見、笠間営林署の払下価額及び笠間市において砕石業を営む同業者の実例を参考にして、原石一立方メートル当たりの原価を六五円と算定し、これに昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの間の原告の砕石製品生産数量三六万二〇七立方メートルを乗じて算出することができる。

(砕石業界の精通者意見)

社団法人日本砕石協会茨城県支部、茨城県砕石協会及び茨城県砕石販売協同組合(以下併せて「砕石組合」と総称)の専務理事兼事務局長粟栖平造によれば、砕石組合が茨城県の依頼により算定した同県の標準的な砕石工場渡しの砕石製品一立方メートル当たりの昭和五二年、五三年の販売原価のうち、原石の価額は六〇円ないし六五円である。

(笠間営林署の払下価額)

笠間営林署が昭和五三年四月一日から昭和五六年三月三一日までの間に砕石用岩石(硬岩)を払下げた状況は別表(三)のとおりである。同表は、そのほとんどが同署管内において特に岩石の品質が良好で、かつ、砕石製品の大口需要地に隣接する土浦、石岡地区に所在する岩石の払下げの実例であるが、右期間における岩石一立方メートル当たりの払下価額の平均価額を算出すると、六四円八六銭である。

(笠間市の同業者の実例)

岡本興業株式会社笠間営業所が昭和五〇年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの間に採石山林を賃借して支払った採石料(再契約分を除く。)は別表(四)のとおりである。同表によれば、見込採石量又は契約採石量一立方メートル当たりの原石の原価の平均価額は二六円二二銭であり、右期間の支払採石料を採石山林一〇〇〇平方メートル当たりの平均年額に計算すると、その金額は一〇万〇六二八円である。

また、笠間砕石株式会社が昭和五〇年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの間に採石山林を賃借して支払った採石料は別表(五)のとおりである。同表によれば、右期間の支払採石料を採石山林一〇〇〇平方メートル当たりの平均年額に計算すれば、その金額は一二万〇七八二円である。

右のように、笠間市において砕石業を営む者の採石山林の賃貸による砕石一立方メートル当たりの支払採石料及び賃借による採石山林一〇〇〇平方メートル当たりの賃借料の額は、極めて低額である。

<2> 減価償却費(一八六八万四五二七円)

昭和五三年三月三一日現在おいて協栄商事が所有し、かつ、原告が賃借している建物四棟(但し、昭和五〇年三月協栄商事が二八〇〇万円で取得し、同社の代表取締役藤田千代子及び同人の夫藤田正男などの居住の用に供している住宅は除く。)、構築物五点、車両二台及び機械装置等一九点の取得価額に、法廷耐用年数の定額法の率を適用して算定すれば、別表六のとおり本件事業年度期間の原価償却費は一八六八万四五二七円である。

<3> 租税公課の額(五六万円八二七〇)

実際に原告が使用収益している次に掲げる土地等に係る昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの間に課された租税公課の額の合計額。

(ア) 昭和五一年六月二六日協栄商事がその大口債権者である上田砂利産業株式会社(以下「上田砂利」という。)へ譲渡担保として提供したが、実質上原告が使用収益している不動産の固定資産税の額(但し、協栄商事の代表者藤田正男などの居住の用に供している住宅に相当する税額は除く。)一万一七六〇円

(イ) 原告が使用収益している協栄商事名義の建物の固定資産税の額及び機械装置等の償却資産税の額の合計額三〇万九五五〇円

(ウ) 上田砂利の代表者宇田吉郎の妻宇田千代子ほか二名の名義となっているが、所有者は協栄商事であって、原告が実際に採石している部分の土地に係る固定資産税の額四二四〇円

(エ) 昭和五一年六月二六日協栄商事が譲渡担保として上田砂利へ提供した土地に係る特別土地保有税の額一五万〇二二〇円

(オ) 協栄商事に課された自動車税の額九万二五〇〇円

<4> 賃貸人の利益の額(四九五万五六一一円)

一般的に不動産鑑定評価の際において、不動産等を所有者自身が使用することがなく賃貸に供する場合の賃貸料の算定においては、その不動産等の賃貸者は投資額に対して期待される一定の収益(以下「期待利回り」という。)を賃貸不動産の賃貸により享受されるように計算することとなっており、また、期待利回りの率は、金融市場において最も一般的と思われる投資(例えば、国債、社債、株式及び預金等)の利回りを標準とし、それに投資対象の危険性、資産の安全性等を比較衡量して決定されることになっている。

ところで、賃貸建物等の右期待利回りの率は年八パーセントないし一二パーセント程度とされており、一般に税務計算上貸付金等に対する利息相当額は年一〇パーセントにより算定することとして取り扱われている。

本件賃借料の対象となった協栄商事からの賃借物件のうち、建物、構築物、車両及び機械装置の昭和五三年三月三一日現在の時価は、同日現在の協栄商事の帳簿価格と大差はないものと認められるから、右帳簿価額の合計額四九五五万六一一九円(但し、建物のうち藤田正男らの居住の用に供しているものを除く。)に期待利回り率一〇パーセントを乗じて算出した額四九五万五六一一をもって賃貸人の利益の額とすべきである。

(5) なお、原告の協栄商事に対する賃借料のほとんどは、協栄商事の債務の弁済に充てられたものであるが、適正賃借料を超える支払額は実質的には協栄商事の債務の無償の引受けと同視されるものであり、また何らかの反対給付を得ている支出ではなく、しかも原告が損失を被るのみで利益を受けるものではないから、これが寄附金に該当することに変わりはない。

(二) 支払利息の損金不算入額(四四八万二七五五円)ついて

原告が本件事業年度において上田砂利からの借入金等に対する支払利息として損金に計上していた金額のうち、利率計算の誤りから生じた原告の支払額と上田砂利の受取額との差額四四八万二七五五円は、上田砂利が原告からの預かり金として経理した金額であるから、右金額は損金不算入額として原告の本件事業年度分の所得金額に加算すべきものである。

2  本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性

本件過少申告加算税は、国税通則法六五条一項により、本件審査裁決により一部取り消された後の納付すべき法人税額七四八万五五〇〇円(差引所得に対する法人税額七四八万〇三〇〇円と申告により還付した税額の取戻額五二三四円との合計額、但し一〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五を乗じて算出したものであり、原告の本件事業年度分法人税の所得金額は、前記のとおり、二三七七万七一八九円であって、本件審査裁決の所得金額二〇八一万四六八九円を上回るものであるから、本件過少申告加算税も範囲内のものである。

従って、本件過少申告加算税賦課決定処分にも何ら違法はない。

四  三項被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張1項冒頭の事実のうち、原告の本件事業年度に係る(二)申告額及び(四)支払利息の損金不算入額は認めるが、(三)寄附金の損金不算入額及び(一)所得金額は争う。

(一)(1) 同1項(一)(1)の事実のうち、原告が協栄商事の債務の支払のため設立されたこと及び本件賃借料のほとんどが協栄商事の債務の弁済に充てられたことは否認し、その余は認める。

(2) 同1項一(2)の事実は認める。

(3) 同1項一(3)の事実のうち、<2>減価償却費及び<3>租税公課の各数額は認めるが、その余は否認する。

本件賃借料の増額契約は被告主張のごとき算定方式によるものではないし、被告の適正賃借料算定方式は何ら合理性がないものである。

(4) 同1項(一)(4)<1>は争う。

原石の原価は、その用地の取得費、採石量、採石原価、立地条件等により千差万別である。従って、これらの諸要素を捨象して、同業他社の実例や、営林署の払下価額をもって単純に原石の原価を推計することは合理性を欠く。

同<2>、<3>の事実は認める。

同<4>は争う。

被告は、期待利回り率を年一〇パーセントとしているが、高金利を支払っている場合もあり、実質的には年一〇パーセントでは到底適正な期待利回り率とはいえない。また被告は、賃借物件の時価について帳簿価格を基準としているが、帳簿価格は時価に比して低額となっているのが通例であるうえ、現実には本件山林の取得価格は約一億四〇〇〇万円、その他の賃借物件の取得価格は約一億六〇〇〇万円である。しかも、右賃借物件の取得価格は減価償却資産だけの集計であって、建物敷地や砕石プラントの敷地の価格は含まれていない。従って、到底合理的金額とはいえない。

(5) 同1項(一)(5)の事実は否認する。

賃借料の受領者がそれを何の支払に充てようと、それによって賃借料の性格が左右されるものではない。従って、仮に本件賃借料の一部が協栄商事の債権者に対する債務の弁済に充てられたとしても、それによって右賃借料が寄附金に変わるものではない。

(二) 同1項(二)は認める。

2  同2項は争う。

五  原告の反論

1  本件賃借料の正当性

(一) 原告が、昭和五三年三月二一日、協栄商事との間の約定により、同年四月以降の本件賃借料を月額八〇〇万円に倍増させたのは、原告の生産体制が整い、営業も軌道に乗る見通しがつき、生産数量が昭和五二年度に比し二倍程度に達することが見込まれたためである。

このように、生産見込みによって賃借料を決定したのは、採石を伴う砕石業の特殊性に由来するもので、予め生産数量を確知し得ないからにほかならない。また、生産見込みが増大すれば賃借料も増大することは賃借土地の消耗(原石の減少)の度合いが激しくなる以上当然であり、現に原告の昭和五三年度の生産数量は昭和五二年度に比して二・四八倍に達しているものである。

従って、原告が協栄商事との間で本件賃借料を倍額にしたのは適正かつ妥当というべきである。

(二) 本件賃借料が高額とはいえないことは次の事実からも明らかである。

(1) 通商産業省生活産業局窯業建材課昭和五七年三月発行の砕石業実態調査報告書(甲第三七号証)第1部第4章表23(砕石のトン当たり生産費の規模別、地域別構成を集計したもの)に基づき製品一立方メートル当たりの単価を集計すると、山代(原石の原価)は、北陸では三三三円、関東では二二一円、全国平均では一五四円であり、また、減価償却費は、関東では二〇一円、全国平均では二七〇円である。

賃借料の主要な構成要素は原石価額と減価償却費であるから、右の二つを合計すると全国平均で一立方メートル当たり四二四円となる。国税不服審判所の認定した原告の昭和五三年度の年間生産数量は三一万九一四〇立方メートルであるから、年間の原石価額と減価償却費の合計は一億三五三一万五三六〇円となる。

そうすると、本件賃借料は年間九六〇〇万円であるから、右全国平均より三〇パーセントも低いということになる。

(2) 茨城県採石企業連絡協議会連合会の茨城県土木部長宛と、標準の砕石一立方メートル当たりの原石価額は六〇円、減価償却費は二五八円であって、合計は三一八円となっている。この価額によって算定すると、年間賃借料は三一万九一四〇立方メートルで一億〇一四八万六五二〇円となる。これも九六〇〇円よりはるかに高い。

被告は賃借料算定の要素として、原石価額、原価償却費のほか、租税公課、賃貸人の利益を認めるところであるから、これらを加算するとさらに賃借料は増加する。

2  仮に、被告主張の算定方式を前提として適正賃借料を算定すべきものとした場合は、次の積算によるべきである。

(一) 原石の原価(五四三三万一〇五〇円)

賃借料の決定に当たり、賃貸物件の取得原価が大きな要因となることは当然である。しかるところ、協栄商事は本件山林を取得するに際し、同業他社に比べ約四・七倍もの高額の対価(取得価格一億三九四一万七三八八円、一〇〇〇平方メートル当たりの取引価格四六九万四一八八円)を投資しているから、これを考慮に入れ、その二分の一である一〇〇〇平方メートル当たり二三四万七〇九四円をもって取得原価の基礎とすべきである。右取得費は、同業他社の取得費九五万八四五三円の約二・四倍であるから、被告主張の一立方メートル当たりの原石の原価六五円の二・四倍である一五六円の端数を切り捨て、一五〇円をもって適正な原石の原価とみるべきである。そうすると、これに昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの間の原告の砕石製品生産数量三六万二二〇七立方メートルを乗じると、右期間の原石の原価は五四三三万一〇五〇円となる。

なお、協栄商事は、倒産する前に本件山林の表土剥ぎを済ませていたから、これに要した費用も当然賃借料に反映されるべきことになる。その意味でも、右の一立方メートル当たり一五〇円の原石の原価は相当というべきである。

(二) 減価償却費(一八六八万四五二七円)

税法上のものとして被告主張額を認める。

(三) 租税公課の額(五六万八二七〇円)

被告主張額を認める。

(四) 賃貸人の利益の額(二四〇〇万円)

賃貸人は、賃貸物件の取得費及び再取得費も考慮に入れて賃貸人の利益を算定するのが通例である。しかるところ、本件賃貸物件の取得価格は約三億円(本件山林の取得価格約一億四〇〇〇万円、その他の賃貸物件の取得価格約六〇〇〇万円)であるから、昭和五三年三月当時の残存価格を二億円とするのが相当である。そこで、これに対する期待利回り率を一二パーセントとして右二億円に乗じて賃貸人の利益の額を算定すると、二四〇〇万円となる。

(五) 以上の(一)ないし(四)の合計額は九七五八万三八四七円となるから、これを一二か月で割ると一か月当たり八一三万一九八七円となる。従って、月額八〇〇万円とした本件賃借料は適正である。

3  また仮に、本件賃借料が適正賃借料に当たらず、協栄商事の債権者に対する債務の弁済に充てられたとしても、それが原告の必要経費であって、損金であることには変わりはない。その理由は次のとおりである。

(一) 法人税基本通達九―四―一によれば、法人が経営権の譲渡等に伴いやむを得ず債務の引受けその他の損失の負担をした場合においても、それが今後、より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたもので、社会通念上も妥当なものであるときは、税務上これを寄附金として取り扱わず、損金計上を認め必要経費として取り扱うこととされ、かかる取り扱いは両会社が取引関係、人間関係、資金関係その他特殊関係以外においても密接な関係にあれば、親子会社であることなどに限定されないこととされている。

(二) ところで原告は、倒産した協栄商事の債権者委員会の監視のもとで、協栄商事の保有資産を賃借してその賃借料を支払うことを条件に設立され、かつ、営業することを許されているものであるから、賃借料を支払わない限り営業を継続することは不可能である。しかも原告は、協栄商事の債権者との間の裁判上の即決和解で、協栄商事の債務を保証しており、協栄商事から借り受けた砕石設備はこれらの債権者のため担保に供されているものであって、原告が協栄商事に対し、かかる債務の弁済のための資金を供与しないと原告の営業は成り立たなくなるものである。すなわち、原告においては、「より大きな損失」である「倒産」を避けるためには本件賃借料の支払が不可欠なのである。

(三) 従って、前記通達の精神からすれば、仮に本件賃借料の支払が協栄商事の債権者に対する債務の弁済に充てられたとしても、これをもって寄附金として取り扱うことは許されず、損金計上を認め必要経費として取り扱うべきものである。

六  五項原告の反論に対する被告の答弁

1(一)  原告の反論1項(一)の事実は否認する。

本件賃借料を月額四〇〇万円から八〇〇万円に増額させたのは、協栄商事の債権者に対する債務弁済額を増額させるためであり、生産数量の増加が見込まれたためではない。

(二)  同1項(二)(1)及び(2)は争う。

(1) 原告主張の山代の数値は、本件賃借料算定の基礎に加えるべきでない原石採掘に伴って排出する土砂の処理費用や、地域補償費等の間接費を含むものであるし、その調査対象となった企業には、原石の原価が高く、多額の埋戻し費用を要する玉石砕石業者も含まれているものであるから、右数値を適正賃借料額算定の基礎とすることは妥当ではない。

(2) 原告主張の原石の減価六〇円はともかく、減価償却費二五八円については、本件賃借料の減価償却費計算の根拠たり得ない。すなわち、原告は本件賃借設備に係る被告計算の減価償却費を認めており、右償却費の合計額一八六八万四五二七円を生産量三六万二二〇七立方メートルで除すと、一立方メートル当たりの償却費は五一・五八円であること、また、原告はその使用に係る砕石設備の全部を協栄商事から賃借しているのではなく、砕石に必要な設備の一部については、原告自身が所有していることからすれば、本件賃借料の適正額を算定するに当たり、原告主張の見積書記載のごとき一般的な原価償却費の数値を根拠とすることは妥当ではない。

2(一)  同2項(一)の事実のうち、協栄商事が本件山林を取得した際の取引価格が原告主張のとおりであること、これが同業他社に比べ約四・七倍の高額の投資に当たること及び原告の砕石生産量は認めるが、その余は否認する。

原告は本件山林の取引価格をもって賃借料の算定に反映されて然るべきであると主張するが、原告も自認するように、本件山林の取引価格は同業他社の取引価格の平均(その内訳は別表(七)のとおり。)と比較して異常に高額であり、かかる異常な取引価格を適正賃借料額算定の基礎とすべきではない。また原告は、協栄商事は倒産する前に本件山林の表土剥ぎを済ませていたから、これに要した費用は賃借料の算定に反映させて然るべきであるとも主張するが、協栄商事の直前である昭和五一年五月二八日において表土剥ぎの終了していた部分は切崩した断面付近の僅かな部分だけである。また、樹木の伐採のみが終了した部分の面積は約一立方メートルであり、右伐採に要した費用は九〇万円以内であるから、いずれにしても適正賃借料の算定に影響を与える程のものではない。

(二)  同2項(四)の事実のうち、本件賃借物件の取得価格が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

本件賃借物件(本件山林を除く。)の主なものは消耗の激しい砕石設備であって、別表(六)のとおり法定耐用年数の大半を経過したものが多い。しかも、協栄商事が昭和五二年三月期において減価償却をしていないことや、協栄商事との契約において修繕費等(部品の取替えを含む。)の負担は原告が負うこととされ、現に多額の修繕費支出することによって使用を可能ならしめていることからすれば、これらの資産の帳簿価額が時価を下回っていたということは到底考えられない。また一般に、減価償却資産について賃貸借契約を締結するに当たって、物件が中古品である場合には契約時の物件の状況に応じて賃貸の条件が定められるものであって、原告が主張するように取得費を賃借料算定の基礎とするなどということはあり得ない。

3  同3項は争う。

原告の主張する事情は、原告が協栄商事に対し債務弁済資金を供与するにつき正当な動機があるというに過ぎないのであって、右供与が無償でなされることまで合理化するものではない。また、適正賃借料を上回る不相当に高額な賃借料名義の金員は、これを協栄商事の債権者に対して協栄商事に代位して原告が弁済し、これによる求債権を資産に計上をするか、若しくは原告が協栄商事に対し融資(貸付)してこれを貸付金に計上するというのが最も実態に即した処理である。このような処理によらず、右不相当な金員を費用として計上した原告の処理は、右求債権又は貸付金の放棄と同視できるところ、かかる場合の債権の放棄は、協栄商事が保有資産を原告に賃貸し、多額の賃借料収入を得ており弁済能力があることからすると寄附金とせざるを得ないのである。従って本件取引に原告主張の通達の適用はない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の本件口頭弁論期日調書と一体となる書証目録及び証人等目録の記載と同一であるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1項(本件各処分及び審査裁決等の経緯)の事実は別表(一)記載の審査裁決日を除いて当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八号証の二によれば、審査裁決日は昭和五五年一一月二七日であると認められる。

二  支払利息の損金不算入

原告の本件事業年度に係る法人税確定申告における申告所得額はマイナス四〇万三三九〇円であるが、その算出根拠の中には、右事業年度における損金として原告の上田砂利に対する支払利息が算入されているところ、そのうち四四八万二七五五円は、利息計算の誤りによる過払金であり、上田砂利においてもこれを原告からの預かり金として処理しており、右金額は損金に算入することができず、所得金額に加算されるべきものであることは、当事者間に争いがない。

三  寄附金の損金不算入の可否

1  原告は、昭和五一年六月に倒産した砕石業を営む協栄商事株式会社の第二会社として同年九月設立された同族関係にある会社であり、協栄商事の代表取締役藤田正男が実質的に主宰しているものであること、原告は倒産後の協栄商事から従前砕石事業に供していた本件山林や建物、車両、機械設備等を借り受け、これらを使用して砕石業を営んできたこと、原告は右山林等の賃借料として協栄商事に対し、昭和五二年九月から昭和五三年三月までの間は月額四〇〇万円、昭和五三年四月から同年八月までの間は月額八〇〇万円の各割合で合計六八〇〇万円を支払ったことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  本件口頭弁論の全趣旨によれば、右賃借料を対価とする原告の協栄商事との契約上の権利は、作業用地、砕石プラントの設備、原石採掘用重機、運搬車両等を使用するだけでなく、砕石山林から原石を採掘取得することを内容とするものであることが認められ、右契約は、砕石業界で「賃貸借」と通称されるものに属するが、法的には混合的な有償の無名契約である。

3  被告は、原告が協栄商事に支払った右賃借料のうち、二倍に増額された昭和五三年四月分から同年八月分までの賃借料月額八〇〇万円のうち、適正賃借料額(月額四〇〇万円)を超える部分(五か月分合計二〇〇〇万円)は寄附金に該当し、法人税法三七条に基づき計算した損金算入限度額を超える一九六九万七八二四円は損金不算入額として所得金額に算入されるべきものである旨主張するので、以下のこの点について判断する。

(一)  被告が主張する賃借料(原石採取の対価を含む。以下同じ)の適正額算定の計算方式(<1>原石の原価・<2>減価償却費、<3>租税公課の額及び<4>賃貸人の利益の額を合計して適正年額とする。)は、反証がない場合における標準的な金額の算定方式として一応の合理性を備えている。但し、右金額は、<4>の利益の額の中に土地専用料や原石以外の山林産物の喪失補償料など他の考慮項目のすべてが算入されないならば、最低額の基準となりうるにすぎないものである。

(二)  被告は、右算式による適正賃借料額を算出するに当たり、一立方メートル当たりの砕石用原石(以下単に「原石」という。)の原価を一の砕石業界の精通者意見、(2)笠間営林署の原石の払下価額、(3)笠間市において砕石業を営む同業者の実例を総合勘案して六五円とすべきであると主張する。

これについては、次のとおり認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

(1) 証人粟栖平造の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証並びに証人三村裕孝の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第三〇号証によれば、茨城県砕石販売協同組合が茨城県土木部に対し県営工事の設計単価見積りの参考に供するため、同県内の標準的数値として報告した昭和五二年、五三年の砕石製品一立方メートル当たりの販売原価のうち原石の価額は六〇円ないし六五円であったこと、また、茨城県採石企業連絡協議会が右と同様の趣旨で茨城県土木部に報告した昭和五二年度の採石製品「c四〇―〇」の一立方メートル当たりの販売原価のうち原石の価額は六〇円であったことが認められる。

(2) 成立に争いのない乙第二号証によれば、笠間営林署が昭和五三年四月一日から昭和五六年三月三一日までの間において原石(硬質の砂岩、以下単に「硬岩」という。)を払下げた一四事例の砂岩の量、払下価額等は別表(三)のとおりであり、右期間における硬岩一立方メートル当たりの払下価額の平均は六四円八六銭であったことが認められる。

(3) いずれも官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人高林進の証言により真正に成立したと認められる乙第三、四号証及び同証人の証言によれば、原告と同様笠間市において採石業を営む岡本興業株式会社笠間営業所(本店札幌市、後に株式会社オーリスと商号変更)及び笠間砕石株式会社が昭和五〇年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの間に採石山林を賃借して支払った賃借料(採石料)は、それぞれ別表四及び五のとおりであって、岡本興業株式会社の場合採石一立方メートル当たりの支払賃借料の平均額は二六円二二銭であり、地積一〇〇〇平方メートル当たりの賃借料の平均年額は、岡本興業株式会社の場合の一〇万〇六二八円、笠間採石株式会社の場合一二万〇七八二円であることが認められる。

(三)  右認定の事実によれば、被告が主張する六五円の金額は、本件山林が所在する笠間地方における本件事業年度における原石価額単価の平均的数値として採用してよい金額ということができる。

しかし、右金額は、平均的数額にとどまるものであから、特定の契約における賃借料の適正額を算定するためには、個別に当該契約の目的物件に特有の諸事情を検討しなければならない。これについては次のとおり判断される。

(1) 前掲乙第一号証、第三、第四号証、成立に争いのない乙第一四号証の一及び二、書き込み部分を除き原本の存在及び成立に争いのない甲第三七号証、証人粟栖平造、同藤田正男(第二回)の各証言を総合すれば、茨城県下の砕石業者は、買収若しくは貸借の方法により採石用地を確保し、これを採掘することにより、あるいはこれと並行して営林署から原石の払下げを受けることにより、砕石に供する原石を取得していること、従って本来同県下における砕石業者の原石の単価は、<1>砕石用地を買収した場合は買取価格を推定可採鉱量で除すことにより、<2>採石用地を賃借した場合は年間賃借料を年間生産量で除すことにより、<3>営林署から原石の払下げを受けた場合は払下価額を払下げにより取得した原石の総量で除すことにより、それぞれ求めることができること、採石用地の買取価格ないし賃借料は、当該用地から採掘される原石の品質、土石に占める原石の割合、当該用地の需要地からの距離、砕石プラント用土地の有無等によって必ずしも一律ではなく、かかる違いが原石の原価の違いとなって現れること、また、原石の原価は採掘に要する費用によっても異なり、例えば、採石用地が厚い表土に覆われている場合、採石用地が市街地に近く災害や公害防止のため十分な配慮が必要な場合、採掘方法に制約がある場合などには、より多くの採掘費用を必要とする関係から原石の原価に少なからず影響があることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) また、前掲乙第二号証、成立に争いのない乙第一六号証原本の存在及び成立に争いのない乙第三〇号証の三によれば、笠間営林署が管内の硬岩を採石業者に払下げる場合の売払予定価額は、

<1> 栗石の採取料(茨城県が河川管理規則に基づいて毎年発表するもの)

<2> 岩石の評価係数(商品的価値、規格品の歩留まり、笠間地区では八〇パーセント程度)

<3> 硬岩の割合

<4> 総土石量

<5> 表土除去係数

の<1>ないし<5>を用い、

<1>×<2>×<3>×<4>×<5>=売払予定価額

の算式により算定していること、しかして、右算式における硬岩の割合は、採掘現場の状況によって異なり、開発が進んでいる採掘現場において継続的に採掘がなされる場合(採掘が階段の垂直移動のような形態で行われる場合)は表土が少ないため概ね七五パーセント以下であり、売払物件が表土に覆われたままの状態にある場合(当該区域において、初めて採石が行われる場合あるいは区域を拡張する場合)には概ね四〇パーセント以下であること、別表三はかかる硬岩の割合が多岐にわたる原石(硬岩の割合が二一パーセントから一〇〇パーセントのもの、但し、一〇〇パーセントの事例〔順号4〕は対象となる区域の表面が全て硬岩であったという特殊なケースで、これを除けば二一パーセントから七五パーセントのもの)の払下事例を集成したものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 右各認定したところによれば、原石の原価は、原石の品質はもとより、採石用地の条件や、採石に要する費用の多寡等具体的個別事情によって種々異なるものであるから、これらの諸条件を度外視して平均的あるいは標準的な数額や同業者の取引事例額をもって、そのまま被告主張の前示算式における原石の原価にあてはめることは不相当であり、また、笠間営林署の硬岩の払下価額についても、採掘土石に占める硬岩の割合によって大きな差異があり、これらの硬岩割合の異なる払下事例の払下価額を平均した数額をもって本件岩石の原価を推定することも、原告の採石山林について特有の具体的事情である硬岩の割合を全く考慮しないことになり、不相当であるといわなければならない。

以上のとおり、本件原石の原価を一立方メートル当たり六五円とする被告主張の根拠はいずれも採用することができない。

(四)  そこで、ひるがえって原告の採石山林の具体的状況に基づき原石の価格の算定を試みるならば、次のとおりである。

(1) 前掲乙第三〇号証の三、成立に争いのない乙第一一号証、第一七号証の一、第三〇号証、第二六号証の二、第二八号証の二、第三二号証、第三五号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証、いずれも各撮影時期における本件採石現場の写真であることについて当事者間に争いのない乙第二二号証(昭和五七年八月撮影)、第二六号証の一(昭和五一年五月二八日撮影)、第二八号証の一(昭和五三年一二月二六日撮影)、証人藤田正男の証言(第二回)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告が協栄商事から借り受け採石していた本件山林とこれに隣接する茨城県笠間市福田字狢ヶ入一四八番六山林二万四七九三平方メートル(以下併せて「本件採石山林」という。)は、笠間市内における同業者岡本興業株式会社笠間営業所の採石継続中の採石山林と類似し、そこから主に採掘される硬岩の全体の土石に占める割合は七〇パーセント位であるが、階段採掘法を用いて採掘する場合は一部硬岩を残して採掘するため、その採掘土石に占める硬岩の割合は六五パーセント位になること、協栄商事倒産直前の昭和五一年五月二八日当時の本件採石山林の概況は別紙図面のとおりであったところ、右採石山林において本件事業年度を含む昭和五一年五月二八日以後昭和五三年一二月二六日までに採掘された地域は同図面の「採掘地域」と「伐採地域」とにわたるもので、その採掘量は航空写真の分析による推定では、「採掘地域」からの量が少なくとも九万一五〇〇立方メートル以上、「伐採地域」からの量が二〇万七一一〇立方メートルであること、しかして、昭和五一年五月二八日当時、右「伐採地域」は樹木を伐採しただけで表土や風化岩(軟岩)に覆われた状態であったが、「採掘地域」のうち少なくとも別紙図面表示の崖の下の線から北西部分は、既に表土等が除去されて採掘も進み、硬岩が平地状に露出していたことがそれぞれ認められ、右認定に反する乙第二一号証の一の供述記載は前掲各証拠に照らしにわかに措信し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定の事実に照らすと、本件事業年度において本件採石山林から採掘された採石に占める硬岩の割合は六七パーセントを下ることはないものと認めるのが相当である。

(2) そこで、右認定の硬岩割合をもって別表(三)の笠間営林署における払下事例にあてはめると、前掲乙第二号証によれば、硬岩の割合が六五パーセントに対応するものは順号12(乙第二号証では順号13)の事例で、その払下価額は一立方メートル当たり約七三円六八銭であることが認められる。

そして、前示の笠間営林署における硬岩の払下予定価額算定方式のうち、単価算出に差異を生ずる項目で払下物件ごとに数値が異なるのは、硬岩の割合を除けば、岩石表係数と表土除去係数である。本件採石用地と別表(三)順号12の取引事例対象地とは遠くはないけれども具体的な両者の岩石評価係数の差は不明であり計算上考慮することはできない。表土除去係数は硬岩の割合と表裏をなすものであるから、その数値は両者ほぼ同一とみてよいと考えられる。

そこで、右払下価額単価七三円六八銭をもって本件原石の原価を推定する資料として試算を進めることとする。

(3) ところで、前掲乙第一号証及び証人粟栖平造の証言によれば、昭和五二年、三年頃の茨城県下における買収若しくは賃借による採石山林からの砕石製品一立方メートル当たりの標準的な原石の原価は六〇円ないし六五円であったこと、これに対し、同じ頃の笠間営林署からの払下げによる砕石製品一立方メートル当たりの原石の原価は四〇円ないし四五円であったことが認められるから、一般に、買収若しくは賃借による採石山林からの砕石製品に占める原石の原価は、笠間営林署からの払下げによる砕石製品の原石の原価のおよそ一・五倍とみることができる。従って、賃借による本件採石山林から採掘される硬岩一立方メートル当たりの原価は、前示の七三円六八銭を一・五倍し、一円未満の端数を切る捨てると一一〇円となり、これに昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの間の原告の砕石製品生産数量三六万二二〇七立方メートル(この数量は当事者間に争いがない。)を乗じて右期間における一年分の原石の原価を算出すると三九八四万二七七〇円となる。

(五)  前記の一応の合理性が認められる被告の算定方式における計算項目のうち、<2>減価償却費一八六八万四五二七円及び<3>租税公課の額五六万八二七〇円は当事者間に争いがなく、<1>原石の原価については前示のとおり三九八四万円二七七〇円であるから、右<1>ないし<3>を用いるほか、<4>賃借人の利益の額については、契約の目的物件から土地を除いた建物、構築物、車両及び機械設備の価額は、原本の存在及び成立につき争いのない甲第九号証により帳簿価額(合計四九五五万六一一九円)が認められる以外には、その時価が幾何であるかを確認するに足りる証拠はないので、右帳簿価額に期待利回りの利率を乗じて算出することとし、右の利率は、建物等賃貸借における積算賃料の期待利回り率が一般に八ないし一二パーセントとされており、通常額に比し著しく高額か否かを判断する場合であるから、通常の賃料計算の範囲内における最高率である一二パーセントとして<4>の額五九四万六七三四円を算出し、<1>ないし<4>を合算して本件事業年度における一応の適正賃借料を算定すれば、年額六五〇四万二三〇一円となり、一か月当たり金額は五四二万〇一九〇円となる。

但し、右金額は、前判示のとおりもともと一応の標準額であり、賃貸人の利益額を算出する基礎とした目的物件価額が協栄商事の帳簿価額であって正確を期し難いのみならず、右算定額は土地の専用料等を含まないものであるから、現実の支払額が著しく高額であるか否かを判定する基準額としては、さらに上回る金額を考えるべきものである。

そして、本件支払賃借料月額八〇〇万円は、被告の算式を用いて算定した右標準額五四二万〇一九一円の一・五倍弱であるところ、具体的な個々の契約関係において自由な合意により定められる賃借料額は、一般に需要供給関係その他の力関係や賃貸人の現実投資額など標準額計算に考慮し尽くすことのできない特有の諸条件に左右されるものであって、仮に客観的に適正な賃借料額が算定されたとしても、これを超過する合意金額が直ちに不当な額になるとはいえない性質のものであり、本件における支払賃借料額は、前記のような標準額の一・五倍にも満たず、協栄商事の本件採石山林取得の投資額は同業社の投資額の約四・七倍も高額な一億三九四一万七三八八円であるとこ(当事者間に争いがない。)をも考慮すれば、未だ通常の賃借料額の範囲内にあるものと認めるべく、これをもって著しく高い異常な額として、その一部が実質的に寄附金(贈与その他無償の給与)であると認めることはできないものである。

四  そうすると、前示のとおり支払利息の損金不算入については争いがないから、原告の本件事業年度における所得金額は左記のとおり四〇七万九三六五円となり、本件更正処分のうち、右所得金額を超える部分は原告の所得を過大に認定した違法があり、本件過少申告加算税賦課決定処分のうち、右所得金額を超える部分に対応する部分も違法であり、いずれも取消しを免れないものというべきである。

(一)  申告額 △四〇万三三九〇円

(二)  支払利息の損金不算入額 四四八万二七五五円

(三)  所得金額((一)+(二)) 四〇七万九三六五円

五  よって、原告の本訴請求は、本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分のうち、所得金額四〇七万九三六五円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるから、これを正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉惺 裁判官 近藤壽邦 裁判官 達修)

更正決定

原告 石原砕石産業株式会社

被告 水戸税務署長

小又英男

右当事者間の当庁昭和五六年(行ウ)第二号課税更正等処分取消請求事件につき、当裁判所が昭和六二年三月一〇日日言渡した判決に明白な誤謬があるので、職権をもって、左記のとおり更正する。

右判決二七丁裏七行目から八行目にかけての「第二八号証の二」の次に「及び三」を加え、同八行目の「第三五号証、」を削除する。

昭和六二年三月一七日

水戸地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 渡邉惺

裁判官 近藤壽邦

裁判官 達修

別表(一) 課税処分経過表

(課税事業年度 自昭和五二年九月一日至五三年八月三一日)

<省略>

別紙(二)

<省略>

別表(三) 笠間営林署の砕石用岩石(硬岩)の払下げの状況

(昭和53.4.1~56.3.31)

<省略>

別表(四) 賃借の採石山林の支払採石料の状況(岡本興業株式会社笠間営業所)

(昭和50.1.1~55.12.31)

<省略>

別表(五) 賃借の採石山林の支払採石料の状況(笠間砕石株式会社)

(昭和50.1.1~55.12.31)

<省略>

別表(六) 減価償却費の額の計算の明細

<省略>

別表(七)

笠間市において砕石業を営む者の採石山林の取得の状況

(昭和50年1月1日~昭和55年12月31日)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例